「山形で、岩魚(イワナ)釣りをしない?」
ナカヒラ君に誘われた。
なぜ山形なのか?
友人の八鍬(やくわ)さんが、山形にいるからである。
やくわさんが、釣り道具一式持っているからである。
やくわさんが、
岩魚の穴場を密かに知っているからである。
1000円ポッキリの高速を4時間、
そこは、山形。
ナカヒラ君とやくわさんが待ち受けていた。
早速、山へ分け入る。
何と言っても、私は、岩魚釣りは初体験である。
小学生の頃、川で、魚を捕まえて遊んでいたが、
アレは、素手だった。
今回は、
渓流釣りと云う列記としたフィッシングである。
スタイルからして違う。
まず、
ウエーダーという、長靴が胸まで延びた奴を履かされる。
ウエーダーの意味を訊ねると、ナカヒラ君の応え。
「上田くんが作ったんじゃないの」
先が思いやられる。
人が殆ど来ないであろう山中の川の支流に一歩踏み出す。
下流から上流へと、静かに進んでゆく。
聞けば、岩魚という魚は、たいそう臆病なんだそうな。
人影を感じたら、岩の隙間に逃げ込み、
二日は、出てこないんだそうな。
だもんで、身体を低くし、岩影に隠れるようにして、
淵に近づいてゆく。
この忍び寄り方は、まるで忍者だ。
釣りをしていると云うより、盗人に近い。
後ろから、ナカヒラ君の声が掛る。
「だるまさんがころんだ」
うるさいっちゅうの。
「坊さんが屁をこいた」
ブッ!
ほんとに、こいてやんの・・
そろりそろりと竿を伸ばし、釣り糸を淵のポイントに入れる。
神経を研ぎ澄ます。
岩魚が餌を追いかけている様を想像する。
っと、竿がグニャリと曲がった。
ピチピチチャプチャプ跳び跳ねながら挙がってきたのは、
まぎれもなく、美しい魚体。
初、岩魚、24センチ。
その夜、炭火で岩魚の塩焼きの御馳走にありついたのだった。
「もう、ビギナーズラック使い切ったかんね」
やかましナカヒラ君。