タコの餌のイカ
「タコ釣りに行かな~い?」
ナカヒラ君が、
タコ顔で、誘ってくる。
タコ釣りは、初体験である。
イシマル船長の操船で、船は東京湾を走る。
乗員は私を含めて
5名。
水深10メートルほどの所を仕掛けを這わせてゆく。
仕掛けとは、冒頭の写真だ。
タコの餌が、
イカなのだ。
それを見るなり、ナカヒラ君。
「タコとイカってさぁ、フランス人なの知ってるぅ?」
『知らない』
「タコハポ~ン、イカジュポーン」
先が思いやられる。
そして、その
思いやられは正解となるのだった。
タコは、そうそう簡単には釣れる奴ではない。
5人が、素晴らしき餌をぶら下げていると云うのに、
全く反応がない。
時間だけが過ぎていく。
そんな時だ。
「おうっ、なんか重い!」
ナカヒラ君が、ほざく。
キリキリとリールの音を立てて挙がってきたのは、
紛れもなくマダコ。
立派なサイズのタコである。
「オレって、天才だね!」
大海原に向かって叫ぶナカヒラ君。
自分の事を
釣りの天才と言って憚らないのである。
これまでも、誰も釣れない時に限って必ず立派な魚を釣り上げた。
その度に、聞かされるセリフ。
「
オレって、天才だね!」
今日も、聞かされた。
そして、その一時間後、再び・・ナカヒラ君。
「おうっ、重い!」
ヌラリと海面に浮かんだのは、立派なマダコ。
当然、聞かされる。
「オレって、
やっぱ天才だね!」
今度は、<やっぱ>が付いている。
聞かされた4人は、むっつりしている。
むっつりしながらも、このタコを今晩いただくことになる。
食べさせていただく事になる。
だから、無理やり口を開く。
『はいはい、アナタは天才です』
「そんだけえ~?」
『はいはい、
やっぱアナタは天才です!』
彼の場合、ビギナーズラックが延々と続いている。
どうも、人生そのものを、
ビギナーズラックだと感じている節がある。
「あ、どうぞ食べて食べて」
『いただきま~す、天才さん2匹も御馳走様でしたぁ』