「船底塗料ありますか?」
自分が、こんな言葉を使うとは、思ってもみなかった。
船底塗料とは、読んで字の如く、
船の底に、貝殻が付きにくくする為に塗るペンキである。
友人の船を、陸上に上げる。
船底を
1mほどの高さに持ち上げておく。
まず、金属のヘラで、くっ付いている貝殻(フジツボ)を
ゴシゴシ削りとる。
「こんなに付いていたのか!」
思わず、声が出る。
「どうりで、スピードが出ない筈だ」
次に、洋風タワシで、サンディングする。
「ひえ~大変だ」
さて、お待ちかねのペンキ塗りだ。
2週間前に、駐車場の壁を塗ったばかりだ。
人生で初めてのペンキ塗りをした2週間後に、
二度目のペンキ塗り経験をするとは思わなかった。
今回は、
油性ペンキだ。
真っ青なドロドロした液体を、ローラーに付けて
ネチャリネチャリと転がしてゆく。
船の下に潜り込んでいるので、天井を塗っている感覚だ。
どんなに気を付けていても、着ている服にペンキが付く。
手は、ペンキで真っ青だ。
髪だけは、守るために、白いタオルを巻いている。
なるほど、ガテン系のアンちゃんが、
タオルを頭に巻いている理由がわかった。
アレは、ファッションではなかったのだ。
皮膚に付着したペンキは、シンナーで拭いとる。
しかし、拭っても拭っても、限度がある。
手が青っぽい。
爪の周りが青汚い。
(困ったな、これから結婚式なんだけど・・)
こんな時頼りになる、ペンキ職人、
色の魔術師ケンジに電話を入れる。
イシマル「油性ペンキが落ちないんだけどぉ~」
ケンジ『シンナーで洗った?』
イシマル「洗ったシンナー」
ケンジ『全部落ちないでしょ』
イシマル「落ちないゼンブ」
ケンジ『ま、そんなもんだネ』
イシマル「もんだネってぇ~これから結婚式あんのにぃ」
ケンジ『爪の間とか、3日はダメだね』
イシマル「うっそ、なんか秘策はないの?」
ケンジ『ないナ』
色の魔術師でも、こんな時、頼りにならなかった。
ましてや、髪の毛にもしペンキが付いたら、えらい騒ぎだぞ。
シンナーなんかでゴシゴシ拭いたら、
脱色して黄色い髪になっちゃうじゃないか。
そうか、以前、ケンジの頭が、黄色かったのは、
そのセイだったのか!
しょうがなく、結婚式では、ずっと
グーをし続けていた。