「腰がムズムズするよお~」
ビルの屋上に立っている友人が叫んでいる。
高所恐怖症である。
人は、程度の差はあれ、
何がしかの高所恐怖症を持っているらしい。
「あ~腰が抜けるぅ~」
私もごたくに漏れず、高い所は腰がムズムズする。
フリークライミングで、数十mの絶壁を登っているにも拘わらず、
ビルの屋上は怖い。
ヘリに近づくと、腰が抜けそうになる。
そして、この腰ムズムズの感覚は、
腰ムズムズでしか味わえない感覚なのだ。
痛い、痒い、寒い、暑い、こそばゆいなどとは、
一線を画した感覚である。
そこで、イシマル博士は考えた。
なぜ、人は、
高所に行くと、腰がムズムズするのだろう?
なぜ、
手が痺れたり、首が凝ったりしないのだろう?
胃が痛くなったりしないのだろう?
なぜ、<腰>なのだろう?
人によっては、お尻がムズムズするとも云うが。
博士は、腕組みをした。
これは、
猿から人に進化した時と関係があるナ。
猿が、樹上生活をしていた時には、
高所恐怖症は無かった筈だ。
二足歩行を始めてから、ムズムズが始まったに違いない。
木に登らない生活が続き、
ある時、木に登った人間が、感じたであろうムズムズ。
博士は実験をしてみた。
ビルの屋上で、ムズムズした瞬間に、
四つん這いになってみた。
つまり、原始の先祖に近い格好をとってみた。
すると、どうだ・・
ムズムズが引いていくではないか!
<四つん這い>=安全
簡単な図式が、そこにあった。
博士は、ここに至って、理論を導きだしたのだ。
<腰がムズムズする> → <腰が抜ける> →
<二足から、四つん這いになる>=安全
すなわち、手が痺れたり、首が凝ったりしても、
四つん這いにはならないが、
腰が抜ければ、四つん這いになる。
それが故に、進化の神様は、腰ムズムズを植え付けたのだ。
高所でしか味わえない感覚を、
我々人間は獲得したと言っていい。
危険察知能力を備わったと言ってもいい。
我々は、猿に向かって、自慢していいのだ。
おケツを差し出し、どうだとばかりに、威張っていいのだ。
「君ら、
ムズムズしないだろう、ヘヘ~ン!」
横浜みなとみらい