「300円で。5分間お湯が出ます」
富士五湖の本栖湖キャンプ場に、簡易シャワーがある。
前から気になっていた。
一度使ってみたかった。
機会は、すぐにやってきた。
300円握りしめ、タオルと着替えを抱えて、扉を開ける。
扉を閉めると真っ暗だ。
カギを掛けると、明かりが灯る。
なるほど、上手い仕組みだ。
さっ、どうすんだ?
ココに、300円を入れると・・・
ふむふむ、5分間シャワーが出るんだナ。
よし、わかった!
5分なら、楽勝だ。
なんせ、
カラスの行水の異名をとるイシマルだ。
コインシャワーの為に生れて来たような男だ。
(んなワケないな)
カチャン、ジャ~!
おお、出だした、出だした・・
まずは、洗顔・・
出しっぱなしってのもなんだから、一端シャワーを止めた。
んだな、
止めながら、5分ぶん使えばいいのだナ。
この時、私はとんでもない誤解をしていた。
湯が出ている時間の総量が、5分だと理解してしまったのである。
ん・・?
壁に付いている
赤いランプが点滅をしている。
洗顔を終わり、頭髪を済ませ、
身体を洗っている段階だった。
《1分前から、点滅を始めます》
と書いてある。
うっそ!
5分間とは・
・5分間だったのかあ~!
ちょっと待てよ。
この点滅は、
いつ始まったのだろう?
見てなかったゾ。
あと何秒あるのだろう?
頭髪は、リンスだらけだし、
身体は、泡だらけじゃないか!
300円と云うから300円ポッキリしか持ってこなかったんだ。
今、給水が止まったら、どうすんだ?
その間も、ウルトラマンの胸の
赤いランプは点滅している。
慌てた。
シャワーのお湯を、頭からジャブジャブかけた。
まだ数秒残っている事を祈った。
とてつもなく高速の身体洗いとなった。
ガタンッ!
身体全部の泡が消えた瞬間、お湯が止まった。
赤い点滅を見つけてから、
10秒後の事であった。
私は、この時、自分に感謝した。
これまで、生涯を掛けて《カラスの行水の訓練》をしていた事に。
空から本栖湖