「卵を立ててみなさい!」
命題を発表したのは、
コロンブスである。
科学者は、とんでもない難題を振りかざす。
弟子たちは、ゆで
卵を持って、右往左往する。
「ゆで卵って、立つの?」
「立つワケねえだろ?」
師匠のコロンブスに、
「立ててみなさい」と言われたからには、やってみる。
しかし、卵は立たない。
さあ、あなたの挑戦だ!
もっと難しい難題に挑戦だ!
《ゆで卵ならぬ、
生卵を立ててみよう》
冷蔵庫から、生卵を一個持ってくる。
目の前のテーブルに置く。
両手に持って、立てる。
ただ立てる。
秘密の技術は、いっさい無しだ。
両手の数本の指で、ただ立てる。
必要となるのは、《集中力》である。
ちゃんと、言おう。
《もの凄い集中力》である。
ミクロの世界の物体の倒れ方を、
指に感じなければならない。
右に、少し・・
左に、少し・・
向こうにすこ、すこし・・
コロンブスは、最後に、卵を机にぶつけ、
ガチャっとつぶして、
「ほら、立っただろ!
なんでもいいから立てばいいんだヨ」
発想の転換を促したそうな。
そんな時代だった。
その話を聞いて、けんじろう君の鼻がひらいた!
「その言い方、おかしいやろ!インチキやろ!
ふんだら、おいらが、
生の卵を立ててやる!」
研究熱心なけんじろう君は、生卵を買ってきた。
来る日も来る日も、卵を立て続けた。
そしてある日、気付いた。
私は、
生卵が立つと云う事を信じていない、のではないだろうか?
でだ、
生卵が立っている絵を想像した。
頭の中に、その絵が浮かぶのに随分の時間を要した。
しかし、ついにその絵が浮かんだ。
そこで、改めて、生卵を手に取ったのである。
しかして、その10秒後・・
見事に
生卵は立った!
頭上でオーケストラが、鳴り響いた!
で、昨日、ナカヒラ君の前で、生卵を立ててみせた。
ツルツルのテーブルの上で立ててみせた。
ナカヒラ君の、
驚くまい事か、びっくりするまい事か!
すぐに、俺もやると言い出した。
「絶対に立つと思いなさい」
「はい」
その1分後、生卵は立ったのである。