<テッチャン>が、市民権を得て、しばらくになる。
テッチャンとは、鉄道ファンであり、鉄道写真を撮るために、
日夜、研鑽しているマニアである。
以前は、オタク扱いされ、日陰者呼ばわりされた時代もある。
だから、テッチャンは隠れ続けた。
会社の部長が、
隠れテッチャンだったりした。
会社のデスクのカギが掛かる引き出しに、
取っておきの列車の写真をしまっていたりした。
<テッチャン>という単語にビクビクしていた。
哲夫くんのいる職場で、誰かが、
「テッチャン!電話だ!」
などと発しようなら、思わず首を縮めてしまうのだった。
関西の焼肉屋で、テッチャンの注文が飛ぶたびに、
脂汗をタラタラ流していたのだった。
いっそ、自分の名前が鉄男だったらどんなに良かったか・・
「あなた、テッチャンでしょ!」
「ええそうですよ」
胸を張って応えられたのに・・親を恨んだりした。
それが、今や、世間に認められたのである。
堂々と、人前で、鉄道マニアであることを公言しても良くなった。
テッチャンという言葉自体が、差別語ではなくなった。
むしろ、敬語とまではいかなくても、
<うらやまし語>くらいにはなった。
すると、変な人種が現れる。
「実は、オレ昔から、テッチャンだったんだ」
告白する輩が出てくる。
しかし、よくよく聞いてみると、テッチャンでもなんでもなく、
テッチャンに憧れて、
にわかテッチャンを装っているに過ぎなかったりする。
携帯の着信音が、<世界の車窓から>だったりする。
あのね、本物のテッチャンは、世界の列車は興味ないの。