ツッシーの車がドラえもんのポケットであるのは承知していた。
今度は何が出てくるだろう?
いつもワクワクしていた。
去年の夏は、かき氷を食べさせてくれた。
さて、今年の本栖湖のキャンプ場だ。
「イシマルさん、流しソーメン食べます?」
ほら来た!
ソウメン流しをやると言う。
電池式のグルグル廻るヤツだろうか?
そんな機械をハイエースにわざわざ積み込んであるのだろうか?
あるのだろうか・・どころではなかった。
車内から出てくるは、出てくるは・・本物のの
竹のトイが数本。
それを支える竹の三脚が多数。
これらをさっさと組み立て、
「はい、始めましょう!」
かくして、ツッシーの
本格的ソーメン流しの始まりである。
今まで食べたどこのゾーメン流しより、正統派である。
集まった子供たちも含め、トイの両脇に皆がお椀とハシを持ち、
待ち構える。
最上部からソーメンが流される。
結構な早さで、流れてくる。
この場合、表現は<落ちてくる>のではなく。
やはり、<流れてくる>が正しい。
ハシで掬うと、見事に掬い取れる。
濃いめのツユに浸し、ほとんど咬まずに喉に流し込む。
ここまでが、ソーメン流しの一連の動きだ。
ん・・?
両側に陣取った皆々の動きが変だゾ。
トイの下流から見て、右側の人達がおかしな動きをしている。
そうだったのか!
ハシを右手で扱う者にとって、
右から流れてくるソーメンは、非常に捕まえにくい。
手をひっくり返したり、身体をひねったり、悪戦苦闘している。
ソーメンダンスを踊っている。
正説;
ソーメン流しに於いて、右利きの者は、
トイの左側に陣取らなければならない。
さらに、もうひとつ、
ソーメン流しの最上流に
6才以下の子供を配置してはならない。
もし、そこにガキンチョがいるとどうなる?
流れてきたソーメンを見つけるや、ガキンチョは、すぐにハシを伸ばす。
お椀に取り入れる。
大人はここで、ソーメンをすする。
ところが、ガキンチョは、すする前に、
次に流れてきたソーメンにハシを伸ばすのである。
器に移す間もなく、更に次のソーメンが流れてくる。
ハシを伸ばす。
もはや、ガキンチョにとって、
これは見逃すのとは出来ない
大切な仕事と化したのだ。
次から次に取り込まれるソーメンは最早、お椀からはみ出し、
こぼれ始めている。それでも、まだすくい続ける。
「ケンタ!すくわなくていいから、食べなさい!」
お母さんの叱り声なんか耳に入らない。
下流の人々は、いっかな流れて来ないソーメンにいら立っている。
「ケンタ!、すくっちゃ駄目!」
延々と続く、ケンタ君の
ソーメンすくいが続くのであった。