~昨日の続き~
「さあ、出来ましたヨ~」
母親の拵えた、<ふぐ刺し>に群がる子供たち。
そんな日が、しょっちゅう続いていたイシマル家。
免許も持たず、見よう見まねで、魚を捌き始めた母親。
必要にかられて、様々な魚を捌くようになり・・
っと、その前に、<必要にかられて>の意味を説明しよう。
父親が、釣り好きで、土日になると、
釣竿抱えて、海に出かけていたのだ。
当時の、海は、豊穣な幸を差し出してくれた。
さして釣り上手でない父親の釣竿に、
ありとあらゆる魚を差し出してくれたのだ。
鯛や、アジやサバなどは勿論、
ウナギ、アナゴ、タコにイカ、
そして、問題のフグだ。
海は、平気で、フグを父親に、プレゼントしたのだ。
それも、トラフグ!
フグ界の王様と言われているトラフグ。
「どうぞ召し上がって下さい」
母親の声がかかる。
そのフグ料理を囲んでいるのは、
父親が勤める会社の部下社員たちである。
上司であるイシマル家に、
およばれになったのだ。
『いただきま~す!』
第一声は、大きかった。
ハシも持っていた。
しかし、そのまま、部下たちは固まった。
上司の奥様が、
手造りでフグを捌いたのを知っていたのだ。
なぜ、知ったのか?
答えは簡単。
親父が、自慢げに喋ったのである。
「今日、バカバカ釣れてナ、
サッコ(母親の名前)がソレを見事に捌いてナ。
こいつはうまいゾ、さあ、食べて食べて!」
『いやあ~見事ですネェ、このふぐ造り・・』
ハシが動いてない。
『奥さん、美味しいですよぉ~』
周りのツマの大根ばかり食ってる。
上司である父親だけが、たらふく食った皿の
残りモノを、
部下たちが帰ったあとに、
こっそりゴチになった、けんじろう君であった。