「ジェイ、海を見せてやる、行こう!」
私が、誘ったのは、川平慈英(かびら じえい)だ。
2年前、ミュージカルの仙台公演の空き日に、
仙台に広がる長~い海岸線を見に行こうと、
レンタカーを借りたのだった。
「イヤッホ~!」
助手席で大騒ぎするジェイを乗せて、
田んぼの中をひた走る。
やがて、
松林が現れ、それを抜けると、
砂浜が広がっていた。
右を見ても、左を見ても、砂浜が延々続いている。
砂は、柔らかかった。
走ると息が切れた。
九十九里の波より、はるかに穏やかな波が打ち寄せ、
返してゆく。
「あの向こうに、ハワイがあってだな、その先がアメリカだな」
小学生のような会話をして、
車に戻った。
そして仙台市内への帰り道、
海岸線からそう遠くない道を走っていると、
ジェイが前方のカンバンを指さす。
「クライミングジムじゃない?」
フリークライミングのジムが、目の前にあるではないか!
仙台に2軒、クライミングジムがあるのは知っていた。
そのジムが、前触れもなく現れた。
いや、探す必要もなく、向こうから現れてくれた。
市内ではなく、海に割と近い場所にあったのだ。
「やろう!」
初体験のジェイに靴を履かせ、手に滑り止めの白い粉をまぶし、
岩を登らせたのだ。
勿論、私も登る。
仙台でクライミングが出来るとは!
幸せなひとときを過ごせた。
「オレ、クライマーになろうかな?」
ジェイも気にいったようだった。
ジムの皆さん、どうか逃げてて欲しい。
アナタ達は、
登るのが得意の筈だ。
屋根でも電柱でも、どこでも登れた筈だ。
どうか・・
三陸の海岸