《
その時》、私は、東京の地下鉄の座席に座っていた。
座っている人と、立っている人の数が、
同じほどの混み方だった。
「ただいま地震が発生しております。
車両を緊急停車いたします」
突然、車内アナウンスが、普通の声で語りだした。
車掌さんの喋りだ。
マニュアルがあると思える喋りだった。
駅と駅の中間地点で、列車のスピードが弱まった。
そのスピードは、
通常、駅に止まる時よりは急だが、
ツンノメルほどでない急スピードの停車。
止まる寸前になって、ひどく揺れている事に気付く。
「ただいま地震が・・」
アナウンスが繰り返される。
喋る人は誰もいない。
悲鳴もあがらない。
揺れているのに、窓ガラスは鳴らなかった。
窓が開かないタイプの地下鉄の窓だからだろうか、
カタカタという列車特有の音がなかった。
全体的に、ンゴンゴと云うような、
うねり音が鳴っている。
後に、地上は、
震度5強だと知るのだが、
電車内の感覚では、
5弱に思われた。
むしろ、4強の震度なのに、列車が揺れるせいで、
増幅されているのではないか・・との感覚を持った。
揺れは、<横揺れ>。
その地下鉄の線路の向きが揺れに対して、
横方向だったのだろう。
<縦揺れ>、<横揺れ>という表現があるが、
実際は<前後揺れ>もあるはずだ。
これは、そのうち検証したい。
《地下は地上より揺れが少ない》
知識としては知っていたが、体感的にはその通りであった。
私は、静かに動いた。
手が、無意識に足元に伸び、
靴紐を結びなおしている。
スカイツリー と 五重の塔