《遠い飲み屋》があるという。
山の上にあるという。
ならば行こうではないか!
と、テレビ局が、声をかけてくれた。
八つが岳の南の端に、その山小屋はある。
編笠山2524mの傍に、昔から建っている小屋。
《青年小屋》
山小屋としては、珍しい名前の小屋だ。
<○○山荘><○○肩の小屋>でないのだ。
そういえば、丁度40年前・・・
その小屋の横にある平らな場所で、キャンプをした事がある。
八つが岳連邦を北から縦走し、
最後にテントを張った場所がソコだ。
立ち枯れの広々とした空き地にテントを張った。
その夜・・
食事を終え、寝袋に身体を沈めた時だった。
テントの周りを歩く、妙な足音に気づいた。
テントのすぐ近くを、頭の方向に、半周ほど歩くと、
きびすを返し、又半周歩く。
スワッ!
熊?
そお~と、ナイフを取り出し、寝袋の中で構える。
まんじりともせず、耳をすます。
足音のペースは変わらない。
ミシリ・・ミシリ・・
小一時間もそうしていただろうか・・
やがて、連日の疲れで、不覚にも眠ってしまった・・
ドヒャアアア~~~!
突然テントが吹き飛ばされて、目が覚めた。
時計を見ると、夜中の3時だ。
10mを超える突風が吹きつけ、大粒の雨もしばいてくる。
40年前のテントってえヤツが、これまた厄介で、
風の中で、一人で建てるには向いていない。
建てられないと言ってもいい。
しかし、風雨に負けず、健闘し、
1時間後、びしょ濡れになった身体を、
テントの中で休めるけんじろう君であった。
「ン・・?まてよ?夕べの足音はナンだったのか?
今のテントとの格闘で、足跡なくなったし・・」
その一ヶ月後の事だ。
週間読売の雑誌を手にとって、目がまあるくなった。
<八つが岳の立ち枯れの中を歩く幽霊>
ヒエ~~~~~