<蚊>好きですか?
好きなわけないよネ。
では、<ブヨ>好きですか?
夏の夕方、野原や山の水辺に出没する昆虫だ。
小さな空飛ぶ虫だ。
一見、害虫には見えない。
こいつらが、私たちを悩ます。
蚊は・・親切である。
プ~~~ン
近寄ってくる時に、
羽音を発する。
蚊だとバレてしまう。
蚊は・・お馬鹿である。
刺されると、
すぐに腫れて痒くなる。
「おのれ!どこ行った?」
血を吸って体重の重くなった蚊は、追い掛け回される。
バチン!
一巻の終わりとなる。
で、<ブヨ>だ。
奴らは、音も無く忍び寄る。
ガタイも小さい。
我々を襲っている筈なのだが、
襲う気配を発しない。
だので、どこか安心している。
ぼんやりしている。
ところが、奴らの闘争本能は、蚊と変わりない。
我らの柔らかい部分を狙っている。
肌がむき出しの部分を狙っている。
刺す。
しかし、刺されているのに、全く気づかない。
では、いつ気づくのか?
刺された明日だ。
翌日だ。
24時間後に・・
「なあ~んか、足の甲がムズムズするんですけんど!」
さらに、12時間後に・・
「ボリボリ、気が狂わんばかりに、痒いんですけんど!」
さらに、12時間後に・・
「もう、足を掻きすぎて、血だらけなんですけんど!」
夜も眠れない。
シーツが血で真っ赤に染まっている。
眠りながら、掻いているのだ。
ブヨの呪いはまだまだ続く。
3日過ぎて、足のアチコチにカサブタ付きの血だまりが出来、
睡眠不足で、ボ~っとした人間ができあがる。
わが体重の、10万分の1しかない体重の虫が、
我が仕事さえ、妨害する。
「カットぉ~!」
『すみません、足が痒くて・・』
「イシマルさん、なんか、今の芝居良かったんじゃない」
『はい?』
「鬼気迫る表情と、下半身の痙攣!」
『あ・・それは・・』
「一皮むけましたネ」
ええ、足のアチコチが・・・
室内に入り込んだ セミ