「もうそろそろ帰ろうかネ」
舟で釣りに出ている。
釣り人は、例によって、ナカヒラ君と滝田くんだ。
滝田くんは初心者にも拘わらず、イナダを1本釣り上げたし、
もう充分だろう・・
っと、その時だった。
「ウワッ重い!」
見ると、滝田くんの竿がグンニャリ曲がっている。
非常に大きな魚が釣り針に架かった事を物語っている。
「ま、巻けない」
重すぎて撒けないと、うなっている。
そして、やがてその魚は揚がってきた。
「ウワア~サメだあ~!」
1mを超えるサメが、暴れまくっている。
釣り初級者の滝田くんは、ここで重大な過ちを犯す。
釣り針は、上下に2本付いている。
サメは、下の針に掛かっている。
釣り糸をたぐり、サメを取り込もうとした滝田くん。
タモを用意する私。
するとその時、サメが最後の抵抗を試み、
反転したのだ。
ガクンとテグスを引っ張られた滝田くんは、スルスルと、
テグスを出してしまった。
すると、どうなる?
上の針はどうなる?
手の平の中をスルスルと過ぎるテグス・・
必然、上の針は手の平の中を通る。
グサリっ!
滝田くんの右手の親指に、針が刺さった。
グイグイ!
サメは、滝田くんを海に引きずり込もうとする。
やには、ハサミを掴んだ私が、釣り糸をぶった切った。
残った親指には、紅いイカの餌付きの針がグサリ・・
針ってのは、返しが付いているので、素人では抜けない。
プルルルル~
「はい、大畠です」
整形外科医の大畠先生に海上から電話する。
『カクカクシカジカ』
「はい、すぐ来て下さい」
すぐに行こうとした。
すると・・・ナカヒラ君の甲高い声が・・
「ねえ、サメが釣れた後ってさ、必ず鯛が釣れてない?」
言われてみれば、そうだ。
あの時も、あの時も・・
3人が、フリーズした。
「ねえ、滝田く~ん、指・・痛い?」
『いや・・』
「あっそっ!」
その後、
友人の指より大事な鯛を釣るべく、
ナカヒラ君とイシマル君は、
釣り糸をたらし続けるのであった。
「ねえ、痛い?」
『・・・・・』
釣果