<シイラの干物>
「イシマルさん、シイラの干物持ってきなヨ」
行きつけの魚屋<丸一(まるいち)>の大将が言う。
シイラとは、
あのシイラである。
あのシイラという言い方も変なのだが、
あのとしか言い様のない、不可思議な形をした魚である。
どちらかと云えば、
深海魚風の姿をしている。
頭部が異常にでかくて、尻すぼり。
なのに、水面直下で生涯暮らしている。
背びれを、水面から、空中に出して泳いでいさえする。
釣り人が、ルアーを投げると、
なにはなくとも、かぶり付く。
動いているモノはなんでも、取りあえず、かぶり付く。
カジキマグロだのシーバスだのと云った、
海のハンターなんか
めじゃない。
他を凌駕するほど、極端に襲い好きなハンターなのだ。
いつもいつも、泳ぎ回っている。
だから、身体に脂肪が殆ど付いていない。
深海の冷たい場所にも旅行しないので、
脂肪がない。
究極のアスリートである。
そのまま、ダイエット競技場に連れて行けば、
即、優勝するほど、
惚れ惚れとしたスタイルを維持している。
体表の色使いは、海世界一の芸術家だ。
緑と黄緑のグラデーション・・
散りばめられた黄色の点描・・
ファッションに怠けている他の魚たちも、
是非見習っていただきたい!
「ヒラメ君!キミの事を言っているのだヨ!」
「カレイ君も、よそ見をしないように!」
「あっ、サバ君は、気にしないでいいヨ」