ジィ~ジョリジョリジョリ
ヒゲを剃っている。
電動バリカンで剃っている。
ハッ!
突然、大変なことに気付く。
ヒゲソリの手を止める。
「なんてことを!」
私が驚いているのには、理由がある。
私は、
ヒゲを剃ってはいけなかったのだ。
映画のロケが、数日後にせまっており、
無精ヒゲを生やさなければならないのである。
悪い事に、私のヒゲは、おいそれと生えてこない。
伸びるのが極めて遅い。
1日や2日では、不精にはならない。
時間を巻き戻そう。
昨日の朝・・
ジィ~ジョリジョ
っとなったところで、(ハッ!)
気付いたのである、剃ってはいけない事に。
(やばいやばい、なんとかしなければ)
このままでは、又剃るに違いないと考えた私は、
鏡に、張り紙をした。
《ヒゲを剃るな!》
ふむ、これなら大丈夫だ。
男ってヤツぁ、毎朝、無意識でヒゲを剃ってしまう動物である。
朝、鏡を見ると、すぐに、ジョリジョリとやりだす。
歯磨きを忘れても、ジョリジョリは忘れない。
(よし、これで大丈夫だ)
それが、昨日の朝だった。
で、今朝だ。
鏡の前に立った。
顔が映りにくい、何か紙が貼ってある。
『貼ってある・・』
と認識した時には、私の右手は、ヒゲソリを握っていた。
『何か書いてある・・』
と認識した時には、すでにヒゲに当てていた。
ジィ~ジョリジョリ~
ま、間に合わなかった。
文字が、私の目から入り、脳に届く前に、
私の右手が動いていた。
ガックリと首を垂れた私。
やがて、頭を持ち上げると、
右手に握ったヒゲソリを、
棚の奥の奥に隠したのである。