ボゥ~オォ~オ~!
ホラ貝が鳴り響いているのは、東京、高尾山だ。
小林家と7人で、高尾山に登っていたら、
目の前に、僧侶たちが、ホラ貝を吹き鳴らしながら、
横切っていった。
ん・・?
まてよ?今僧侶と述べたが、それでいいのかな?
あそこは、寺なのか?神社なのか?
確か、真言宗の大本山があったから、寺院だな。
さあて、高尾山には、御土産屋はじめ、
様々なお店が山中に軒を連ねている。
頂上にさえ、ソフトクリームを売っている店がある。
我らが、登頂したのは、雪のチラつく夕方だった。
帰りのラストのケーブルカーに間に合うだろうか?
足幅広めに、下山していると、
どこからともなく人が増えまじめた。
それも、登山やトレッキングとは相容れない、
普段着の方たちだ。
下れば下るほど人が増えてゆく。
中には、頭を剃った人までもが、
どんどん我らを追い越してゆく。
「そ、そうか!」
この群集は、この高尾さんで働く方達なのか?
お坊さんも通勤しているのか?
修験の山にこもっているとばかり思い込んでいたのだが、
カバンをさげて、通勤するのか・・
最終的に、40人を超える集団が、我ら7人と共に、
ケーブルカーに詰め込まれた。
キップではなく、何か別のモノを係員に見せていた。
てえことは、アレは、定期かな?
ケーブルカーの定期があるのか?
「キャア~ホッホ~!」
ケーブルカーが動きだして、騒いでいるのは、我らだけである。
そりゃそうだ、彼らにとって、
毎日通勤のケーブルカーが珍しいワケがない。
文庫本に目を落としている人もいる。
我ら役者が、芝居がはけて、劇場の裏口から、
化粧っけなしに夜の街に出てゆくように、
彼らは、ケーブルカーという下界に続く乗り物にのって、
修験の山から、降りてゆくのである。
「あの人、ボウボウと鳴らしていた人だヨ」
6歳のリンちゃんに指摘された防寒着姿の方は、
ホラ貝を吹いていたお坊さんであった。
袈裟を脱いでも、
子供の目は、正体を見破っていた。