マスクが日進月歩の進化をとげている。
口元に装着しているのを、思わず忘れてしまう。
これが、事件を呼び起こす。
先日、大阪は地下鉄御堂筋線に揺られていた。
長椅子に座り、ポケットから、のど飴を取り出した。
チャチャチャッ
二粒を、左の手のひらに送り出す。
その二粒を、手のひらで転がしながら、
目標である、口に向かって・・やおら放りあげる。
当然、放り受ける口元が大きく開く。
ところが・・
口元を管轄している私は、びっくりする。
私の口元は、マスクで覆われているのだ。
するとどうなる?
ポ~ンと放ったつもりの錠剤が、すぐさま手の平に返ってくる。
マスクが、錠剤を跳ね返したのだ。
ここですぐに、現在の状況に気付けばよかったのだが、
私に備わっている、意味のない反射運動神経は、
その錠剤を、再び口元に放ってしまった。
ポトリ・・当然返ってくる。
つまり、錠剤は、手のひらと口元を、二往復したのだ。
反射神経が状況把握能力を上回った例である。
「ふんげ・・」
感嘆詞が漏れた・・・右となりから。
チラっとみると、右隣に座っている、
年の頃20代の女性が、
頭から丸くゼンマイの様に、かがみこんだ。
身体を小さく折りたたみ、痙攣している。
(見られたのか?今の行為を?)
マスクの上に錠剤を放り投げたお馬鹿な行為の、
一部始終を見られてしまった。
「キィィィィィ~~」
折り曲げた彼女の腹の奥から、
3オクターブ上のソプラノ悲鳴が漏れる。
あの悲鳴は、笑いをこらえている時に漏れる、
高音だ。
汽笛に近い。
猿のキィキィ声に似ている。
人は、笑いを我慢すると、悲鳴を発する。
おまけに、隣の席なのだからして、
ぶるぶる震える振動が伝わってくる。
あまりのお馬鹿な行為を見てしまった彼女の身体が、
うち震えている。
「キィィィィ~~」
又もや、笑いをこらえる時の汽笛が漏れる。
もはや悲鳴を超えて、
ひきつりに近い。
「キィ~ッ」
駅に着いた。
いなや、丸まったままの格好で、彼女は、
開いた扉にダッシュしていったのだ。
あまりの苦しさに、
その苦しさを与えた、超お馬鹿なマスクマンの顔を、
見届ける間もなく・・・
参照
《マスクマン》 2006;3月6日
《マスクマン②》2006;3月21日