子供の頃、大人が喋っていた言葉に反応した。
「皆既日食と金環日食がいつ来るか?」
けんじろう君は興奮した。
子供の耳には、怪奇ニッショクと、
キンカンニッショクに聞こえる。
怪奇とキンコンカンと鐘が鳴るのである。
ニッショクが何だか分からないが、
おどろおどろしいニッショクと、
楽しく鐘が鳴るニッショクである。
大人が、喋るには、
「特に、キンカンニッショクはまず、見られない」
のだそうだ。
さて、昨日、私は、岐阜県可児(かに)市にいた。
6時前から、朝飯を喰らい、キンカンに備えていた。
外に出てみると、雲ひとつない快晴である。
道路にイスを据えた。
専用メガネをかける。
食は一時間半前から始まった。
キンカンニッショクが7時半からだと聞かされれば、
7時半にはらなければ、表に出て来ない人もいた。
ぎりぎりまで、布団の中にいる人もいた。
ついに起き上がらない人もいた。
日食は面白い。
何が面白いって、
月までの距離が感じられるのである。
月までと、太陽までの距離感を、なんとなく目で感じるのである。
(はは~ん、太陽のこっち側の、あの辺に月があるんだな・・)
(さほど遠くないけど、近くはないな)
何億キロと云う距離を、
それなりに感じられる体験が出来た。
鏡を持ち出し、太陽の光を反射させ、遠くの壁に当てる。
蝕まれた太陽が、逆さまに映し出される。
木の下の陰が、リング状に揺れている。
皆既日食と金環日食の違いがわかった。
皆既の場合は、かなり暗くなるが、
金環では、やや暗くなる程度だ。
科学が進んだ現代に、「今日食ですよ」と言われない限り、
ほとんど分からない。
江戸時代に、金環日食が現れても、気付かなかったであろう。
つまり、日食、月食の天体現象の中で、
もっとも気付かれない現象と言っていい。
太古から続く空観測の中で、実は、
現代的な天体現象かもしれない。
ああ~面白かったぁ~2時間半!