この魚、名前は《チヌ》という。
しかし、これは関西での呼び名だ。
一般的には、黒鯛(クロダイ)と呼ばれている。
鯛と身体つきがそっくりなのに、色が黒いので、そう呼ぶ。
鯛と黒鯛を白黒写真にしてみると、
ほとんど見分けがつかない。
それほど形が似ているのに、どこで色が違ったのか?
答えは簡単。
食べ物のセイだ。
鯛は、<エビで鯛を釣る>の格言どおり、エビを主に食べている。
エビは赤い色素を持っている。
その色素を採り入れるので、本人も赤くなる。
では黒鯛は何を食べているのだろうか?
きっと、
黒いモノ違いない、とアナタは普通考える。
そのとおり、普通でよろしい。
黒い貝を食べている。
サザエや、ムール貝や、ウニなどを喜んで食べている。
その色素が沈着して黒くなる。
ここまで、読んだ関西の読者は、
「クロダイと呼ぶな、
チヌと言うちくれ!」
苦言を呈す。
「チヌと呼ばんのなら、もう口をきかん!」
怒りだす。
関西でクロダイと云えば、全く違う魚をさす。
「チヌはやっぱり、チヌやろが!」
チヌという響きに誇りを持っている。
名前の最後が「ヌ」で終わる珍しい魚だ。
魚に限らず、最後が「ヌ」なんて名前はそうそうない。
今、目を天井にあげて、思い出そうとしたが、
すぐに浮かんだのは、
《絹》くらいのものだ。
それ以外がすぐ浮かんだとしたら、アナタの脳は活性化している。
関西で釣りに行って、水面に銀色の魚体がギラリと浮かぶと、
釣り師は大声をあげる。
「チヌじゃ、チヌチヌチヌチヌ! チヌチヌチヌチヌ!」
チヌを大連呼する。
最低、8回は連呼する。
皆もれなく連呼する。
毎日、チヌ釣りに通っている常連でさえ、連呼する。
さほど、関西では、釣れた感激が大きい魚の代表と言えるだろう。
関東では、なぜか連呼しない。
理由は簡単。
「クロダイ、クロダイ、クロダイ、クロダイ!クロダイ!」
げっ、舌かんだッ・・