「ナマコを最初に食べた人は偉い!」
昔から呟かれる言葉だ。
アナタはこう考えていないだろうか?
《最初にナマコを食べた人は、食べた事を自慢げに喋った》
実は、それが間違いであるというイシマル説を、これから語ろう。
「ナマコを最初に食べた人は、食える事を隠していた」
これが真実だ。
どういうことか?
昨日、スミヤキの話をした。
スミヤキがあまりにも旨いので、皆に食われまいと、
その旨さを隠しているのである。
なるべく黙っていようと、セコイ考えを持っているのだ。
これが、ナマコにあたる。
ナマコを初めて食べた人は、その旨さにいっぺんで虜になった。
ナマコは、海に行けばいくらでも転がっている。
逃げない。
獲り放題である。
最初に食べた方は、ハタと膝をうった。
もし、わたしが
「ナマコは、食えるでヨ、うまいでヨ」
自慢げに、皆の前で喋ったらどうなる?
みんなは、すぐに海にとんで行き、獲り始めるだろう。
食い始めるだろう。
あっという間に、ナマコがいなくなるのは、目に見えている。
よし、黙っていよう。
こっそり食おう。
しかして、その方は、
隠れてナマコを食っていたのである。
勿論、海では、こっそり捕獲し、
カゴに隠して家に持って帰ったのである。
ひょっとすると、家族にも隠れて食べていたかもしれない。
しかし、いつかは、バレる。
そしてバレた。
人々は、大人も子供も、海に潜った。
ナマコを獲った。
食った。
枯渇する運命であった。
あった筈なのだが、人々はふと悟った。
(ふむ、毎日食べるほどのモノではないな)
ナマコの旨さは、マニアックだったのだ。
通が、通ぶる食べ物に過ぎなかった。
最初の人の心配は杞憂だったのだ。
特に、ナマコが生き延びる決定的な因となったのは、
<ごはんのおかずにならない>
酒飲みの間でのみ、珍重される品となった。
よかったね、ナマコちゃん。
2022 6