「イシマルさん、納豆無いですネ」
「無いネ」
喋っているのは、若手の役者と私だ。
京都の、とあるホテルの朝食バイキング会場だ。
若手「なんで納豆置いてないんですかネ?」
イシマル「うん、まあなぁ」
若手「ボク、食べたいですヨ~」
イシマル「ローマに入れずんば、一日でローマんず、ドゥーだよ」
若手「それ、いろいろ混ざってますヨ」
イシマル「ま、気にするな」
若手「だって、納豆が・・」
イシマル「京都はナ、昔、下の方に都を奪われたんで、
その恨みが・・」
若手「恨みですか?」
イシマル「んだから、そういうの何ってたっけ?
あばたもえくぼの反対?」
若手「坊主憎けりゃ~」
イシマル「あ~それそれ」
若手「じゃ、坊主が東京で、
ケサが納豆?」
イシマル「
ケサは納豆・・ないじゃん、決まったネ」
若手「何言ってんですか、納豆無くていいんですか?」
イシマル「うぅぅ、まあ、イケズしてんだネ」
若手「京都のホテルが我々に?」
イシマル「京都はサ、<京>と一文字の都じゃん」
若手「はい」
イシマル「東の京とか、北の京とかじゃなくサ」
若手「南の京でもないですネ」
イシマル「いわば、ゴルフでいうところの、<ジ・オープン>サ」
若手「わかんないッス」
イシマル「ゴルフ発祥の英国開催の大会を、只、ジ・オープンと云う」
若手「THE・OPENですネ」
イシマル「只、<開催>とだけ呼んでいるのだ」
若手「随分、はしょってますネ」
イシマル「それくらい、権威があるって事じゃない?」
若手「それと納豆は?」
イシマル「んだからぁ、京の人にも
イケズの気持ちがあるワケさ」
若手「イケズって、イジワルですか?」
イシマル「・・の、かわいいバージョンかな?」
若手「東京の人にイケズをしていると・・」
イシマル「好きな人に、わざと意地悪するじゃん」
若手「はいはい、一番好きなモノを隠すとか・・」
イシマル「わかってきたね、だから、納豆を隠してるんだヨ」
若手「困っている姿を楽しんでいる・・と」
イシマル「好きだからネ」
若手「好きですかぁ?」
イシマル「ま、そういう事にしとこう」
若手「納豆食いたいなあ~」
イシマル「武士は納豆食わねど、高楊枝!」
若手「ボクは武士じゃないし、高じゃないし」
イシマル「ん・・」
若手「イシマルさんも武士じゃないし」
イシマル「食べ物のことでチマチマ言うんじゃない!みっともない!」
若手「アナタが一番、チマチマ言ってんじゃ~ん!いつも・・」