そこは、大分県日田(ひた)市だった。
川の畔を仲間の役者(酒井高陽)と自転車で走っていると、
カヌーが浮かんでいるのが見えた。
暑い日だった。
水が恋しかった。
すると、数人の人達が、カヌーのまわりに・・・
「カヌーですか?」
『ええ、カヤックも・・』
「この流れで乗れるんですか?」
『ええ、なんだったら、乗ります?』
話はすぐにまとまった。
二人乗りのカヤックを貸してくれた。
ザブン
冷たい流れにこぎ出した。
暑い夏には、水遊びである。
ライフジャケットは付けているものの、
ひとりの青年が、伴走してくれる。
「イシマルとサカイと申します」
『カワズです』
水面で、自己紹介が交わされる。
川津聖駒(かわず せいま)と彼は名乗る。
「競技をやられているんですか?」
『カヤックのフリースタイルです』
激流を流れ下りながら、様々な演技をする種目だ。
スキーのモーグルに近い。
いや、海のサーフィンに近い。
実際、大波でカヤックに乗っている映像がある。
数々の大会で、優勝しているツワモノだそうだ。
世界を目指しているそうだ。
オリンピック種目になれば、
メダルをとりにいくという意味だ。
その彼が、仲間と芝居を観に来てくれた。
他業種を楽しむというものは、いいもんだ。
激流と舞台という一見、何の関係もない種目であるが、
人の心は、同じ感動をよんだりする。
未曾有の大雨の災害を受けた日田市であるが、
皆で、復興に努力している。
ま、同行の酒井氏は、その後の鮎塩焼きと、
ビールの方がお気に入りだったようで・・
川津聖駒