おばあちゃんが、退院した。
親戚のみんなが見舞いに行った。
自宅で介護をしてくれていたのは、
体格の良い、男まさりの女性だった。
「それでは、私は帰ります。
あとの事は、
ヤツが来てやりますんで」
ドスをきかせ、言い残して、彼女は帰っていった。
<ヤツがくるぅ~>
ホラー映画の副題のような呪文を残した彼女。
ヤツとはどんなヤツなんだ?
どんなヤツが来るんだ?
我々の頭の中で、ヤツの実態がブクブクと膨れてゆく。
彼女にヤツと呼ばれるようなヤツである。
そして、ついにヤツがやってきた。
ギィ~~ドアが開く。
スリッパの軽快音と共に、女性が入ってきた。
ゴクンッ
我らのノド仏が上下する。
「失礼します・・私、
やつと申します」
ん・・やつ?
な・名前なの?
奴ではなく、谷津とか、八都とかの名前なの?
ふ~ん、そだったの・・
ヤツさんね・・・
今後は、言い残す時は、ヤツさん・・と、
さんを付けてネ。
あっそ
ヤツが岳 紅葉