目だけはいい。
視力が健常という意味である。
「ボードケースのファスナーが壊れたんだけんど」
同い年の滝田くんが、
ウインドのケースのチャックが壊れたと嘆いている。
『どれどれ~』
手芸が得意な私が、手に取り、結論をだす。
『任せとけ!』
針と糸、ハサミを持ち出し、解剖を始める。
ようは、切った貼ったをやるファスナー手術だ。
ジョキジョキ、バリバリ・・
最後は、縫合である。
針と糸を手に取り、
黒い糸を針穴にヒョイと通した。
「ゲッ、見えるの!」
針に糸が通せるのかと、滝田くんが驚いている。
驚き方が秀逸だった。
子供のように、私の顔を下から覗き込んでいる。
目を直接見たからって、何が判明するわけでもないのに、
ジロジロと覗き込んでいる。
『見えるよ』
自慢げに、一度抜いて、もう一度通してみせた。
「ゲッ!」
驚きの感嘆詞が、貧困なやつだ。
ヒエ~とか、オマイガッとか変えればいいのに・・
「目だけはいいんだ?」
『目だけはいいよ』
「ゲッ」
目だけはいいんだけんど、
その目をおおっている骨の、
中に入っている物体の能力がなァ・・
目ぇくらい良かったならなァ~
「滝田くん危ないってば~」