南の島のサンゴ礁に、シュノーケリングをしていた。
海面をプカプカと泳ぎ、美しい白い砂や珊瑚を眺めるのである。
っと、そんな時だ。
海底に、なにやら魚らしき形が見えた。
泳ぎ回っている魚ではなく、海底にへばり付いている底魚だ。
もしかして、アイツは・・?
私の、魚知識が、アイツだと示唆している。
《
オコゼ》
醜さにおいては、他の追随を許さないみっともない魚である。
ただし、その旨さにおいても、他の追随を許していない。
高級魚である。
料理屋で気軽に注文したら、目ん玉が飛び出る金額を要求される。
そのオコゼと私の、目と目が合った。
「よし、捕まえてやろう!」
しかし、私は今、手ぶらである。
一応薄い手袋をしているが、
なんたって、オコゼは背中の
トゲに毒を持っている。
刺されると、手の平が、野球のグローブほど腫れると言う。
どうやって捕まえよう?
そこで私は、腰に括りつけているネットを取り出した。
こんな事もあろうかと、洗濯用の、ネットを持ってきていたのだ。
洗濯機の中で、型崩れしたくないシャツなどを入れる、
あのネットだ。
息を肺に蓄え、ボクリッ~海底に潜ってゆく。
そお~と、近づく。
さっき、目が合ったと言ったが、どうやら奴は、
目を開けたまま眠っているようだ。
近づいても、逃げる気配がない。
いや、自らが毒を持っている事に、あぐらをかいて、
安心しきっていると見える。
「まさか、オイラを捕まえるヤツなどいないだろう・・」
油断しているのだ。
海底に逆立ち状態の私は、両腕の先に、ネットを突き出し、
そのまま、オコゼの身体に押しつけた。
昆虫採集を洗濯ネットでやっている、と思って頂ければよい。
バサッ!
その瞬間、奴は暴れ出した。
「なんばすっとネ!」
南の魚は、ジタバタ暴れる。
チクリっ
中指を、ちょびっと刺された!
ええいままよ!
ネットの中に押し込み袋を閉じる。
さて、その夜・・
我が部屋では、宴が開かれた。
メインディッシュは、勿論、
《オコゼの刺身》と、《オコゼの吸い物》
毒のある魚を、潜って、素手で掴んでくるという快挙に、
皆、おおいに賛辞の舌鼓を打つのだった。
「イシマル隊長、明日もお願いしますぅ。
次はカンパチあたりを・・」
オコゼの尻尾