南国の島には、独特な木が生きている。
《モクマオウ》
木麻黄と書くらしい。
高さは30mほどに達し、固い木である。
表皮を剥がすと、紅い肌に驚かされる。
「切っちゃおうか!」
昨年、大きな台風に襲われた与論島には、
中折れした宙ぶらりんのモクマオウが放置されている。
危ないので、切ってしまおうと、私が提案したのだ。
人の胴体ほどもある高い木は、
そう簡単に切れるものではない。
よもや、木によじ登り、途中からの切断は技術を要する。
最近、無理やり自分流に技術を取得した私が、
隊長として、皆を指導する。
「ロープを持ってきてくれ」
木によじ登り、2本のロープをかける。
切れた瞬間に、木が無軌道な動きをするのを防ぐ為だ。
倒したい方向にロープで誘導してやるのだ。
「ロープをもう一本!」
コレは、自分の身体を固定する為。
新しく買い求めたノコギリで、木の切断にかかる。
シャコッ、シャコッ!
下では、2本のロープの端をそれぞれ二人が、握っている。
20分もシャコシャコやっている時だった。
突然、木の切断面から、水が噴出した。
ジュバジュバジュバ~
まるで腹を切られた動物が、血を噴出すさまに似ている。
木の断面が赤いので、さながら出血そのものだ。
木の断末魔の叫びなのだろうか?
樹木には水を根から吸い上げる
水管が通っており、
その水管を切断したのは、わかったのだが、
これまで、木を切っていて、
これほどの水の放出は見た事がない。
っと、そのとき、隊員Yが、何を思ったか、
モクマオウにかけより、手を差し伸べた。
両手で、その水をすくい、口にしたのだ。
ゴクンッ
「どうだ?うまいか?」
みんなの視線の中、Y隊員の顔がひん曲がった。
「まあ~ずぅ~いぃ~!」
マズイんだと言う。
苦くて、渋くて、超のつくマズサなのだそうだ。
Y隊員のおおいなる好奇心と引き換えに、
モクマオウの樹液のマズサが証明された。
ドダ~~ン!
ついにモクマオウは切り倒された。
「やったあ~モクマオウを倒したゾ~!」
我々は、
モクマオウという名前を、耳から聞いているので、
気持ち的には、かような奇声を挙げているのである。
「
モク魔王を切り倒したゾ!」