《マイナス20度》
「今年最低気温でしたネ」
喋っているのは、八ヶ岳の小屋の女将さんだ。
麦草ヒュッテという、冬でも営業している山小屋だ。
我らは、布団一枚、毛布一枚で眠っていた。
部屋には、電気コタツがあった。
「どうぞ、コタツに足を突っ込んでおやすみ下さい」
寝る前に、女将さんが不思議な案内をしてくれた。
その昔、電気コタツに足を突っ込んで、
うたた寝したもんだ。
あまり褒められた行為でなかった。
「いいかげんに布団に行きなさい!」
母親に叱られた。
《コタツに足突っ込んで寝る》という行為を、
叱っているのだ。
「そんな事してると、風邪ひくわヨ」
近所のおばさんにもタシナメられた。
ところがココ、麦草ヒュッテでは、
<してはいけない>行為を、
<是非しなさい>と推奨されている。
理由は、簡単。
しなかったら・・風邪をひくのだ。
風邪どころか、寒くて眠れない。
眠れないどころか、凍えてしまう。
夜中に、ガタガタと震え起きだした、私と滝田くん。
電気コタツに足を突っ込み、
ブルブルガクガクである。
なんせ、外はマイナス20度!
足どころか、下半身ごと、どんどん潜りこんでゆく。
「このやろこのやろ!」
膝も腰も・・
やがてコタツ自体が盛り上がってゆく。
・・夜中のコタツ合戦が始まるのであった。
夢の中では、昼間出会った樹木の怪獣と会話していた。
「君は、南の鳥でないんかい?」