エレベーターだ。
デパートやビルのエレベーターだ。
上に行こうとして、ボタンを押した。
3機のエレベーターがあるのが見て取れる。
どれもの表示が、自分に不利な階を指し示している。
1階から、6階を目指しているのに、
たった今、2回を発車し、上に向かっている。
そいつは、9階まで上った挙句に、
地下3階まで降りるそうだ。
エレベーターの前で、あまりの不運にまぶたを閉じる。
(オレって、いつもこうだよナ)
いつもいつもの不幸に、うなだれる。
(ちょうど運よく乗り合わせた事って、あったっけ?)
まぶたがシバシバする。
(ひどい時なんざ、やっと来たのが、満杯だったよナ)
ここで、気づいてしまった。
人は、エレベーターに寛容である。
怒らない。
「いったいどうなってるんだ!」
エレベーター前で、怒鳴り散らしている方は珍しい。
なぜか、エレベーターに関しては、静かな人になる。
なぜだろう?
僕らは機械の恩恵に預かってきた。
その機械の中で、無意識に感謝している機械があるようだ。
その代表が、エレベーターなのだ。
「ありがとう」
と素直に言えるのが、エレベーターなのかもしれない。
あるいは、無意識に感謝している特別機械なのかもしれない。
だから、
エレベーターさんに、文句を言わない。
さんまで付けて、持ち上げている。
ねえ、アナタ、エレベーターさんが無かったら、
高層ビル、どうなっていたと思う?