エレベーターを降りる時、
腕を伸ばして、<閉めるボタン>を押してゆく人がいる。
アナタが、その押す方だとして話を進めよう。
ブイィィ~ン
エレベーターは動いてゆく。
中に乗っているのは、自分のほかに、3人の乗客だ。
やがて、自分が降りる階が近づいてきた。
「失礼します」
ドアに近づき、降りる旨を知らせる。
その瞬間に、ある事実を察知する。
(この階で降りる人はいないナ)
毎日毎日、来る日も来る日も、
エレベーターに乗っていると、
エレベーターの
乗りプロになる。
乗り合わせた人物の雰囲気で、
その人たちの、降りる階がヨメるようになるのである。
ゴアァ~、ドアが開く。
後ろを振りかえらなくとも、誰も降りないのが分かる。
降りながら・・指を後ろ手にボタンに伸ばす。
《閉》ボタンだ。
それを押さなくとも、たかが数秒待てばいいだけである。
あるいは、残った誰かがボタンを押せばいい。
しかし、アナタは、閉め押しを敢行する。
なぜか?
<あとに残された3人への親切>
いや、違う。
アナタは、
エレベーターを円滑に機能させたいだけなのだ。
3人の事など考えていない。
むしろ、後に残された3人の鷹揚さに、我慢がならないのだ。
アナタは、こう考えている。
《エレベーターは可能な限り、迅速に動かしたい》
ゆえに、後ろ手で、閉まるボタンを押している。
親切でもなんでもないのだ!
そして、アナタは時折、
失敗をやらかす。
閉まるボタンを押そうとして、伸ばした手に、
今にも閉まりかけている扉がひっかかり、
せっかく閉まり始めている扉が開いてしまうのだ!
ガアアァ~~
中にいる3人が、睨む。
「なんやアイツ、バッカじゃないの!」
しかも、アナタの指は間違って、
いらない階のボタンまで押してしまった。
「ドジなやつ!」
築地魚河岸 俯瞰