スーパーに入店した途端、明かりが消えた。
(停電?)
外の信号機も消えている。
店内には、100人近い客がいる。
不思議なことに静かだ。
騒ぐひとがいない。
それどころか、文句を言う人も、声を荒げる人もいない。
整然と、買い物をしている。
魚を覗き込んだりしている。
野菜を持ち上げたりしている。
なんせ、暗くて鮮度がわからない。
値段も目を近づけなければ、読み取れない。
でも、誰も文句を言っていない。
ある意味、
停電慣れしていないセイかもしれない。
そこで、当然の疑問が湧いた。
(レジはどうなってるんだろう?)
遠くに霞むレジを見やる。
ふむ、稼動はしているようだ。
やはりレジの機械そのものは、電気がないと使えないらしく、
おねえさんが、電卓を叩いている。
「ねえ、主任!特売の海苔佃煮いくら?」
値段が貼ってある商品は、その数字を打ち込めばこと済むが、
バーコード表示しかないモノは困る。
山積みにし、手書きで値段を書いてあるモノは、よけい困る。
「肉の主任も呼んで!」
バーコード頼りだったレジが、
数字打ち込み式のレジを跳び越え、
その昔の、ただの
足し算計算場と化した。
街の八百屋と同じである。
ソロバンではなく電卓を使用しているところが、
素早い。
こんな時の為に、あらかじめ用意されていたようだ。
「
ぽっこりイチゴっていくら?」
アヤシイ名前が呼ばれている。
カゴの前に立っているオバチャンの首が縮んだ。
(ぽっこりの名前に惹かれたのかしら?)
後ろに並んでいる客達に、
このオバチャンの趣向がバレちまった。
「主任!キンメいくらですか?」
呼ばれた魚の主任は、意外と若い方であった。
かくして薄暗い中、整然とレジは稼動してゆくのだった。
バーコード、ピッの時と大差ない速さで・・
魚が見え~ん