ケイバーの吉田さん。
昨日お話した危機的探検は、ごまんとあるらしい。
あるとき・・
竪穴を下降していた時のことである。
さしもの探検家も、
足を滑らす事がある。
千に一つとか万に一つとかの言葉が浮かんでくる。
万に一つ起こっても、ミスは命を奪う。
ミスを絶対起こせないのが、地底探検。
トムソーヤの冒険なのだ。
しかし、吉田さんは足を滑らせた。
ロープの捕獲なく、竪穴を、ただ落ちた。
ヒュ~!
落下は、死を意味する。
良くて骨折である。
ザクッ!
落下中、背中に何かが刺さった。
刺さることにより、落下が止まった。
吉田さんは冷静に判断した。
背中側なので見えないが、尖った岩が突き出ていて、
ソレが、
背中の筋肉に刺さったらしい。
痛いとかの感覚より、落下が止まった事実を感謝した。
「大丈夫ですかあ~?」
異変を感じた仲間が遥か上から、呼びかけてくる。
『出血している、ロープを降ろしてくれ~!』
動きのとれない吉田さんは、なんとか脱出方法を画策する。
その時だ・・
カ~ン、コ~ン!
上から、何かが降ってきた。
ガツゥ~~ン!
顔面に激しい衝撃が襲った。
ソレは、洞窟を照らす照明器具じゃないか?
顔面に激突しながら、その照明器具は、
カラコロと遥か下方に消えていった。
「すみませ~ん、ロープを落ろそうとして、
ライト落としましたぁ~」
この時点で、
背中の一点で、ぶら下がったままの吉田さんの額から、
大量の血が吹き出ていたのは、知られる筈もない。
その後、降ろして貰ったロープを頼りに、
自力で、背中の岩から身体を引き抜き、
竪穴を登って帰還したのであった。
地上に這い出てきた顔面血だらけの吉田さんを見た、
仲間がおぞましい声を挙げる。
「ウワッ、な・な・何があったんですか!」
『別に、何も・・』
とぼける吉田さんの足元には、
大量の血が噴出し、あたかも、
洞窟を赤く染めていく様に見えた。
その赤い血が、
実は、背中の傷から吹き出ていたとは、
誰も知ることなく・・・
岩礁で懸垂する私とケイバー吉田さん