中学3年~高校1年までの2年間、けんじろう君は、
病いを患っていた。
急激に走ると、意識が遠くなって、倒れた。
集団検診で検査すると・・
心雑音が聞こえるってんで、
大分県の立派な病院に、連れて行かれた。
診断の結果・・
《心臓の弁が、正常に働かない心臓疾患》と判断された。
今で言う、
心臓弁膜症である。
14才のけんじろう君に、してはいけない事が告げられた。
《走ってはいけない》
《1時間以上、続けて歩いてはいけない》
《お日様に長い間当たってはいけない》
《プールはダメ》
《体育は、欠席》
よって、体育の時間に、みんなの着替えを持って、
樹木の木陰で、じっとしている日々が始まった。
真夏のプールの横の屋根の下で、青白い顔をして、
皆が嬌声を上げるのを眺めていた。
中学一年生からやっていた野球部はクビになった。
30分歩いて通学にかかる距離を、一時間かけて歩いた。
朝礼で、校長の長い訓示を聞いていると、
意識が遠くなり、バタリと倒れた。
「おい、大丈夫か!」
友人の
イリョウがとんできて、けんじろう君を抱え上げ、
医務室まで、運んでくれた。
ある日、こっそり、
ダメと言われているプールで泳いでいたら・・
案の定、意識が遠ざかり、水面にプカリと浮いてしまった。
「おお~又浮かんどるぅ~!」
泳げないイリョウが泳いできて、けんじろう君を抱え上げ、
医務室に運んでくれた。
何度、意識が遠ざかっただろう?
何度、気持ちが萎えただろう?
15才のけんじろう君は、マナザシが暗くなった。
小学生の頃、ターザンに憧れた子供だ。
勉強より、スポーツに意気を感じている青年だ。
将来を悲観した。
(これから・・どうしたらいいんだろう?)
そんなある日、ふと居直ってしまった。
「バタンと倒れたっていいじゃないか!」
「このまま静かに生きるより、激しくあばれてみよう!」
「バタンと倒れたら、イリョウが何とかしてくれるだろう!」
翌日から、運動をやり始めた。
両親の説得も、医者の薬もすべて捨てた。
バタン!
やはり倒れた。
プカリ・・プールに浮いた。
その度に、イリョウが、肩に担いでダッシュで運んだ。
それでも、けんじろう君は、運動をやめなかった。
暴れ続けた。
倒れても倒れても、走る事をやめなかった。
で・・・
そのまま、現在に至っている。
心臓の病が、いつ治ったのか?
どうやって治ったのか?
わからない。
40年以上、年月が経っているが、
いつ治ったのか、説明できない。
ただ、これだけは言える。
あの時、けんじろう君は、こう思ったのだ。
「スポーツが出来ない生涯を暮らすくらいなら、
プールでプカリと浮いてやる!」