夜のディナーバイキング会場に、いた。
大きなホテルだった。
一度に200人ほどが、箸やフォークを動かしていた。
「お飲み物は、ご注文ください。
ビールはどうぞ御自分で」
ふ~ん、ビールは御自分で注ぐシステムらしい。
グラスを渡された。
様々な食材が並ぶ、端っこに、そのマシンはあった。
壇上の演説テーブルほどの大きさのマシンだ。
真ん中にくぼみがある。
右側に、ビールをそそぐコックらしきものがある。
(あとで思えば、正面に使用説明画面があったのだが・・)
さて、どうやるのだろう?
腕を組んだ。
コーヒーマシンでは、カップを置くと、
上からコーヒーが落ちてくる仕組みになっている。
ところが、このマシンは平面のみで、上には何もない。
真ん中の窪みの意味がわからない。
しかし、右に突き出しているコックは、
明らかに
液体を注ぐ形をしている。
アメリカンバーで、カウンターボーイが、
グラスに、ビールやソーダをプシュッと吹き付ける形そっくりだ。
よし、コレだな。
手に取り、専用のグラスにノズルを突っ込み、コックを握る。
ぶしゅぅ・・ぶしゅぅ・・
真っ白い泡が、ぶしゅぶしゅと少しづづ注がれてゆく。
「なあ~んか、ビールっぽくないなあ?」
その時・・・パタパタパタ!
慌てたようすで、係りの女性がとんできた。
『お客様・・
泡だけでよろしいんですか?』
「い・いや・・・えぇっ?」
彼女は、新しいグラスを持ってくるや、
『グラスを真ん中に押し込んではめて、スイッチを押せば』
ブイィィィ~ン
なんとグラスの底から、
黄金色のビールが湧き上がってくるではないか!
専用グラスの底の部分に、仕掛けがあったのか?
『泡が足りなければ、こちらのコックでどうぞ』
「あ・・そちらのコックね・・」
係りの女性は、大量の泡だらけのグラスを下げるべく、
裏の厨房に駆け込んでいった。
その肩が、
我慢できない笑いのひくつきを起こしている。
おそらく、今の、お馬鹿な客の行為をネタに、
おおいに盛り上がるのだろう。
たぶん・・その客の顔を皆が、のぞきにくるのだろう・・
(泡だけでいいワケないじゃないか!
うぅ・・もう帰りたい・・)
じべたに座るハト