「渋いってなんだろう?」
ふと思ってしまった。
辛いだの、酸っぱいだの、苦いだのの食べ物は、
たくさんあるが、
渋い食べ物は数少ない。
少ないどころか、額に指を当てて、目を裏返しても、
なかなか思い出せない。
とりあえず、
渋柿を代表で置いておこう。
あと・・なんだろう?
あったあった!
グミだ。
グミの渋さは渋柿と違って旨い渋さなのだが、
渋いことには違いない。
で・・あと、何があるだろう?
そういえば・・
渋いとき、口の中は、どうなってる?
酸っぱいときには、口がすぼまる。
辛いときには、舌が、腫れる。
苦いときには、ツバを吐きたくなる。
では、渋い時は・・?
《歯茎と口びるの裏の、摩擦が激しくなる》
キシキシきしむ。
歯茎と皮膚の間を、舌でぬめようとしても、
キシキシとひっかかって、滑らない。
歯を歯磨き粉で磨きすぎた感覚に似ている。
「山椒の痺れに似ていませんか?」
いや、それとは違う。
最大の違いは、摩擦だ。
辛いも苦いも酸っぱいも、舌は自由に動き回る。
ところが、渋いだけは、
突然、舌の摩擦係数が高まり、動かなくなる。
ザラザラにささくれたったの床を、
雑巾がけする感覚に近い。
で・・渋いモノだ・・?
アナタは、鮭の卵、
つまり
イクラの生(なま)を食べた事があるだろうか?
「ええ、函館の朝市食堂でネ」
はい、それは、生ではありません。
醤油だの塩だの、何がしかの加工されたモノだ。
今、まさに鮭の腹から絞り出てきた、
生イクラを食べた事があるだろうか?
私は、ある。
あると今、言った瞬間、その感触を思い出して、
歯の裏が、キシキシになってしまった。
そう・・渋いのだ!
それも、そんじょそこらの渋さじゃない。
渋柿の渋さなんてめじゃない。
渋さを通り越して、エグイ渋さだ。
たった、3粒口に放り込んだだけなのに、
その後、1時間ほど、食欲がなくなってしまった。
さほど、渋いエグサだ。
だのに!
醤油などで、加工した途端、
あれほどの旨さに変貌するイクラはずるい。
しかも、それを<生イクラ>と称して売っている。
ずるい!
ん・・?
熊だ・・鮭を川から手で引ったくり、
むしゃぼりついている北海道の熊だ。
捕まえたらまず、腹のイクラに喰らいついている熊だ。
奴らは、渋さに鈍感なのだろうか?
よし、今度、我が家の目の前に秋になるとたわわに実る渋柿を、
熊動物園に差し入れに持ってゆこう。
渋さの学術検証に貢献してもらおう!
野猿