一昨日、東京の田園都市線の電車の中にいた。
さして混んでいなかった。
ふとみると、周りの視線が、こちらの方に向かっている。
正確には、私の左隣の席に座っている足元だ。
何気なく隣をうかがう。
50がらみのオジサンだ。
Tシャツを着た自営業っぽいオジサンだ。
左目で足元をのぞく。
ん・・?
(裸足だ!)
電車の中で、裸足で座っている。
ど・どういう事だろう?
ふと、40年前を思い出した。
19才のけんじろう君が、又もや、お馬鹿な事を思いついた。
「そうだ、裸足で暮らそう!」
一日中、裸足で暮らしてみようと、思ったらしいのだ。
地球に優しいとか、エコとか、原始に戻れとか、
そんな高尚な考えは、とんとない。
例によって、ただの思いつきである。
さっそく裸足になって、アパートの玄関から一歩踏み出す。
コンクリの硬さを思い知る
以外と気持ちいい。
季節は、秋だった。
街を歩くが、人に気づかれる様子はなかった。
(と思う)
食べ物屋に入るのに、勇気がいった。
別に、床の上を歩くだけなのだから、汚れるワケでもなく、
迷惑はかけないのだろうと居直ったが、
お店側は、怪訝な顔をしていた。
だから、なるべくいきつけの仲の良い店ばかり入った。
もしもの為に、ビニール袋に濡れゾウキンを持ち歩いた。
人んちに上がるかもしれないのでネ。
問題は、電車だった。
革靴やハイヒールが、うごめいている電車内に、
どうやって近づく?
駅の改札を通るあたりで、足の指が縮こまった。
ホームでは、人ごみから離れ、なるべく空いている車両を選んだ。
それでも、立っていると、電車の揺れが怖かった。
誰かが、足を踏みかえるのではないか?
靴をズラしてくるのではないか?
まさか、隣のアンチャンが裸足とは思っていないのだから、
靴を平気でぶつけてくる。
ドキドキひやひやの半年間、
なんとか踏まれることなく足を守りとおしたのだが・・
ところで、田園都市線のオジサンだ。
やがて、終点が近づいてきた、そのときだった。
ゴソゴソとカバンの中から、革靴を引っぱり出したのだ。
やには、靴下もはかず、そいつを履くや、当たり前のように、
電車から降りていったのである。
ふ~ん、なんだったんだろう?
足がほてったのかなぁ?