「ハイエースが、脱輪したんです」
私を向かえにくる筈の送迎用のハイエースの後輪が、
道を踏み外してしまった。
そこは、宮崎県のダムに向かう極めて狭いクネクネ道だった。
さっきまで、川で泳いでいた私はびしょ濡れである。
そのまま様子を見にいった。
あらら・・
ハイエースの左後輪が、崖から、はみ出てしまっている。
その分、右前輪が浮いている。
「こいつは4輪駆動ですか?」
『いえ、2輪駆動です』
運転手さんが答える。
止まっている場所は、かなりの坂道だ。
ちょっと振動を与えただけで、ズリ落ちるかもしれない。
落ちれば、そこは、千丈の谷だ。
100mほど下に、谷川が見えている。
ゴクっ・・
私でなくとも、喉仏が上下する。
「え~と、車内にある荷物は取れないよネ」
『ドアを開けただけで、ユラユラしてるからネ』
財布も、携帯も、着替えも、車内に置いてある。
何もできない。
ハイエースは、ジャフに任せるしかない。
時間がかかる。
とりあえず、別の車を呼んで、着の身着のままホテルに向かった。
ホテルの部屋に入り、シャワーを浴びる。
そこまでは、良かった。
「あっ、着替えがないんだ」
とりあえず、ホテルの浴衣をまとった。
「そっか、靴もないんだ」
とりあえす、ホテル付属の紙で出来た白いスリッパを履いた。
「えっ、お金持ってないじゃん」
とりあえず、送ってもらった方に、お金を借りた。
さて、夕食をどうしよう?
ホテルから街へ出た。
観光地ならいざしらず、ただの街中。
ホテルの浴衣に、
白い部屋履きスリッパ。
ペタペタ~
「ごめんください・・?」
飲み屋に入る。
女将さんが、私の姿を眺めるや、視線が足元にゆく。
その目が語っている。
(なにこのヒト・・どっかから逃げ出したのかしら?)
「生ビールください」
(追い出したほうがいいかしら)
その後、現金をチラチラ、テーブル上にこれみよがしに見せながら、
夕食をいただいたのだった。