ベランダに出て、中秋の名月を眺めていた。
「♪~十五夜ぁ~おお月さ~ん~♪」
あまりにも気持ちがいいので、
月見酒と洒落込んだ。
ベランダ(あえてバルコニーと呼ぼう)
バルコニーにはそよ風が吹いて、さわやかだ。
ビールが満月にはよく合う。
っと、なんだか眠くなってきた。
よし、今夜はこのままバルコニーで寝てやろう!
布団を運んできた。
夜空には、月が明るいばっかりに、
秋の星座が、少ししか見えない。
そう云えば、高校生の頃、やはり秋に外で寝たことがあった。
高校のすぐ横にある下宿にいた私である。
夜中に、ゴザと毛布と枕を抱えて、運動場に向かったのだ。
校庭の真ん中にゴザを敷き、ゴロリと仰向けになる。
今と違って、まだ世の中が暗かった時代。
天には雲かと見まちがうほどの、星がきらめいていた。
一つの星を長いこと凝視していると、やがて、
その星が
揺れながら落ちてくるような錯覚を覚えるのであった。
明け方近くまで、天を眺めていた。
・・なんだか周りが騒がしい。
「おはようございます」
スピーカーから声が流れてくる。
むくっと身体を起すと、周りに制服を着た学生が、
数百人整列している。
けんじろう君の周りだけ、輪ができている。
ん・・朝礼?
(眠ってしまったのか?)
なぜ、今まで目が覚めなかったのだろうか?
生徒たちの目が語っている。
(また、馬鹿イシマルだヨ)
そのあと、そそくさとゴザに身を隠しながら、
下宿に逃げ帰ったのだった。
あれから、幾星霜。
ベラ・・バルコニーで夜中にハタと目が覚めた。
原因は蚊だ。
当たり前だ。
まだ、中秋なのだ。
蚊は、これ幸いと私の血を吸っていた。
蚊の世界に格言があったら、当然、言われただろう。
《飛んで火にいる、お馬鹿な人間》