「蓼科山(たてしなやま)に登ろう!」
前日にメールした割りには、
すぐさま滝田くんからOKの反応がくる。
さすが、自由人の滝田くんは、動きが軽いだ。
そういえば、数年前、二人だけで谷川岳に登った時には、
忘れ物大会でもあった。
おまけに、帰り着いた時は、
日没を過ぎていた。
今回もそんなハメにならなければよいが・・
一抹の予感を抱きながら、青々をした秋空の中、登山が始まる。
北八ヶ岳連峰の北の端にそびえる独立峰、富士山似の、
《蓼科山》2530m
この山頂は、異様だ。
直径100mほどの丸い台地になっている。
真ん中が、やや凹んでいるから、
そこが、噴火口であったと、想像できる。
この丸い台地には、木や草が全くない。
あるのは、巨岩だけだ。
直径1~3mほどの岩が、ぎっしり詰まっている。
歩行困難な異様な風景だ。
「標識の棒が立っているところが、頂上みたいだな」
棒の標識まで行き、写真を撮る。
「台地の反対側に、台座みたいなのがある、行ってみよう」
ゴロンゴロの岩を乗り越えてゆく。
転びまろびつしながら、たどり着く。
こちら側からは、白樺湖だの諏訪湖だの、北アルプスだの、
遮るもののない絶景!
同じアングルの同じ写真ばかり、撮りまくった。
「そろそろ日が傾いてきたから、降りよう」
その時だった。
『降りる道が無い』
「黄色の○印か、矢印がないかい?」
『無い!そっちは?』
「こっちも無い!」
眼下遥か下には、降りるべき尾根が見えている。
しかし、頂上から降りるきっかけが掴めない。
なんせ、岩だらけの丸い台地である。
頂上から100mほど下まで、岩しかない。
デタラメに降りるには危険だ。
いや、無理だ。
『これって、迷っている?』
「そう、迷ってる。だから原点に戻り、来た道を戻ろう」
黄色の矢印を戻る。
すると、登頂したばかりのところに、下山路があるではないか!
登頂の喜びのあまり、見落としていたのである。
この山頂で、
30分のロスタイムを生じてしまった。
実は我々は、午前中の登山途中に、道を間違い、
1時間のロスをやってしまっていた。
つまり、下山を開始した時点で、90分の遅れが生じていたのだ。
これが、こののちハプニングを生むことになる。
二人の運命やいかに!
遭難・・?