《ボールをトラップする》
サッカーの技である。
飛んできたボールを足で受け止め、ピタリと地面に降ろす行為だ。
子供の頃から、足先を使って、生活をしてきた私。
扇風機のスイッチは、足で動かす。
当時のスイッチは回す形式だった為、それなりの技術がいった。
その
足先器用な私が、台所に立っている。
冷蔵庫をあけた。
すると、ゴロリ、なんの拍子か、ポン酢のビンが転げ落ちてきた。
オッ!
頭脳が反応するより先に、足が出る。
右足だ。
ムーンサルトの動きをしたポン酢のビンは、
右足でそっと受け止められ、
コロリと床に降ろされた。
(ふふ、割れずに降ろせたナ)
台所では、様々なモノが落下する。
ダイコンが落ちる。
さっと、足が出る。
皿が落ちる。
すっと、足で軟着陸させる。
サランラップが落ちる。
ためらいも無く、足で受け止める。
サランラップやダイコンは受け止めて貰わなくても、
たいした被害は生じないのに、
体が勝手に反応してしまうのである。
さあ、そこでだ・・・
台所につきものと云えば、やはりコレだ。
《包丁》
包丁だって、落下する物体である。
特にマナイタの上に置いた包丁は落ちたがる。
あの時も、包丁は落ちたがっていた。
マナイタの端っこで、ムズムズしていた。
そして、案の定、奴は落ちた!
その瞬間、私の右足は、暗黙の反応をした。
何が落ちても、確実に反応してきた私の右足だ。
包丁だからといって、差別するような非道な足ではない。
「包丁だって、助けてもらいたがっているんだ!」
足の神経繊維は主張する。
しかして・・・
包丁は、右足に向かって急速落下し、
足の甲で受け止められた。
受け止めた時点で、私の脳に、遅ればせながら、
<包丁が落ちた>の情報が伝わった。
(やばい!)
今更気付いても、もう遅い。
包丁は、すでに右足の甲の上にいる。
(刺さった?)
っと、ぶつかった包丁は、なぜかゴロリと回転し床に落ちた。
右足の甲とぶつかった部分が、
偶然に
包丁の刃の反対側だったのだ!
単に、ラッキーだったと言い換えよう。
二分の一の確率で、血の惨劇をくぐりぬけた。
私の右足は、レスキュー最前線、危険な現場で活躍している。