タメトウさんが、突然リンゴの皮をむき始めた。
普通にむくのかと思いきや、どうやら、顔つきが変わっている。
真剣な目をリンゴに向けている。
むけてゆく皮を持ち上げてみると、薄い。
裏側に、ほとんどリンゴの実が付いていない。
実と皮のギリギリの隙間にナイフを滑り込ませているのだ。
「難しいですか?」
『・・・・・・』
返事が返ってこない。
かなりの集中を必要としているらしい。
5分もむき続けていると、汗がボタリと落ちてきた。
むき続けること10分・・
『はあ~こんなもんかな』
色的にも美しい裸のリンゴができあがった。
脇には、カスとなった皮の帯が積まれてある。
『今日は、ちょいと厚すぎたごたるナ』
「コレで厚いんですか?」
『いつもは、こん半分の薄さじゃあケ』
「なんでまた、こんなに薄くむくんですか?」
『やっちみようと、思いついたんじゃナ』
「なぜ?」
『チャレンジじゃぁナ』
何でも、毎朝、このリンゴの皮むきが日課になっているそうな。
その為に、ナイフを懸命に研いでいるそうな。
芝居用語に、《皮膜の間》(
ひまくのかん)という言葉がある。
現実と芝居とのギリギリの隙間に、リアルさを求めた言葉だ。
いったいコレは、芝居なのか?、本物なのか?
その隙間は、限りなく狭いと云われている。
タメトウさんは、その隙間に朝の時間を滑りこませている。
本人は、チャレンジというものの、ほとんど哲学の世界だ。
「すごいですねぇ~」
『いんや、ただ、暇じゃあケ』