「なんでぇ!ヌルい味噌汁出しやがって!」
その昔、味噌汁がヌルいってぇだけで、
ちゃぶ台をひっくり返したお父さんがいた。
あまりと云えば、あんまりだが、
お父さんの気持ちはわからんでもない。
《味噌汁は、熱いのが旨い》
ひっくり返すと、ヌルいのは、旨さが半減する。
どういう事か?
母さんが、朝早く起きて、目をこすりながら、
昆布出しをとり、カツオ出しをとり、イリコ出しまでとった、
味噌汁がヌルかったら、台無しになるのである。
たかがヌルいだけで、
お父さんがちゃぶ台に手をかけたくなるほど、
ランクが下がるのだ。
汁モノは、基本的に温度の下がり方が激しい。
ご飯などの固形物より、グングン温度が低下する。
だからだろうか?
旅館などでも、ご飯のフタをしているのはあまり見ないが、
汁モノは、フタされている事が多い。
板さんも、なんとか熱い汁を出そうと、心がけているのだ。
こんな努力を重ねても、汁は冷える。
熱々、フゥフゥ~
そんな汁はそうそう出て来ない。
ここで、話を私の舌に移そう。
私が喋ったり、味わったりしている舌くんは、
世間で云うところの、
《猫舌》である。
グラグラ熱した汁など、間違っても口内に引き入れる勇気がない。
よもや、中華のあんかけ系に至っては、
溶鉱炉の溶けた鉄を口に注がれる拷問を想起してしまう。
その猫舌の私が、
「熱々の味噌汁が飲みたい!」
と、切望しているのだ。
さほど、味噌汁に関しては、
ちゃぶ台ひっくり返し的な欲望にかられる。
そして、ついに、禁句を発してしまう。
「舌、やけどしてもいいから
熱い味噌汁くんな」