あまりの事に、思わず、腹を抱えて笑ってしまった。
今どき、コントでも、
白々しくてやらないコントもどきに出会ったのだ。
そこは、地下鉄のホームだった。
列車から降りた私が、歩いていると、向こうから、
背広姿のオジサンが歩いてきた。
面白いことに、オジサンは口に切符を咥えている。
今どき、パスモではなく、切符を購入したオジサンだ。
手には、紙袋を持ち、いかにも慌てている風だった。
そのオジサンのポッケから、何かが落ちた。
それは、ネクタイだ。
どうやら、ネクタイを外して、ポッケに入れていたらしい。
そいつが、落ちた。
さあ、ここから、瞬間事件が始まる。
これから話すのは、たった2秒間の事件である。
ネクタイが落ちたのを、見つけた私。
気づかないオジサンに、
「あっ、落ちましたヨ」
すると、オジサン、とっさに振り返る。
振り返った動きの中で、手に持っていた紙袋が手から離れた。
ガシャンッ!
紙袋が、ホームのコンクリに激突する。
なにか、割れ物を入れていたとみえる。
っと、その瞬間!
「アッ!」
オジサンの口が開いた。
口が開けば、当然、さっきから咥えていた切符が空を舞う。
ヒラヒラ~
「ああ~~~」
ネクタイが落ちた事を私が指摘してから、
ヒラヒラと切符が舞うまで、たったの2秒。
コント作家ですら書けない偉業が、
地下鉄ホームで繰り広げられたのだ。
ただし、その切符が、ヒラヒラ舞った挙句、
線路にまで落ちていかなかったのは、
オジサンには、申し訳ないが、
小さな残念であった。
フィニッシュは決めて欲しかった。
こういう時、使う言葉はコレかな?
《画龍点晴を欠く》