香川県に10代の頃、友人のイリョウの家を尋ねた事がある。
高松は屋島の麓で両親と共に暮らしていた。
「おい、鬼が島に行こうゼ!」
イリョウの言葉に、彼の弟も反応し、
3人は、瀬戸内海に浮かぶ、鬼が島へ向かった。
鬼が島は雄島と雌島のふたつがあり、
渡船でわたる。
島内には、鬼が住んでいたという洞穴があった。
おそらく海賊たちの隠れ家だったと思われる。
「ボートに乗らないか?」
貸しボートで瀬戸内海に漕ぎ出そうというのだ。
この時、我々は、瀬戸内の海を甘くみていた。
ヨイショコラショ・・
30分ほども漕いでいた時だった。
なんか浸水してない?
ボートに穴があいているワケでもないのに、
水がずいぶん浸入している。
理由は簡単にわかった。
イリョウの弟の体重が二人分あったのだ。
我々は、3人で乗っているつもりが、
4人分の加重をボートにかけていた。
当然、喫水線は下がり、揺れるたびに、
フチから海水がザンブと入ってくる。
「何か水を掻き出すモノはないか?」
ない!
いったん水が入りだすと、さらに喫水線が下がる。
あと幾ばくもなく、水没してしまう。
「オレがおりる」
けんじろう君が、海に飛び込んだ。
ボートの横を泳いで帰ろうという作戦だ。
おかげで、ボートはなんとか浮いた。
漕ぎ手にも力が入る。
ところが・・・
「ぜんぜん島に近づいてないゾ!」
さほど離れていない筈の島に近づく気配がない。
「流れがものすごく速い!」
濃いでも漕いでも、泳いでも泳いでも、
いっかな島は近づかない。
むしろ遠ざかる。
「おいっ、これは覚悟がいるゾ!」
イリョウの言葉に、我らは奮い立った。
懸命に漕ぐ。
必死で泳ぐ。
もはや、平泳ぎなどやってられない。
クロールオンリーだ。
ガンバレ!ガンバレ!
その時だった。
ザブンっ!
二人分の体重を持つ弟が、ボートから躍り落ちた。
「ボクが泳ぎます」
聞けば、浮力があるので、泳ぎは得意だというではないか!
慌ててボートに這い上がったけんじろう君が、
懇親の力を込めてオールを握った。
島の岸近くはたぶん、流れは緩い。
まずは、岸壁をめざし、流れが緩くなった所を、
じわりじわりと、ボート発着場までたどり着いたのだった。
ハアハアハア~
穏やかな気候をもつ香川県の沖合いは、渦巻く鳴門海峡へと、
潮は高速で流れている。
あの穏やかさにダマされてはいけない。
そうか、この地には、桃太郎伝説も、あるではないか!
鬼が島!