梨が好きだ。
というと、梨ならなんでもいいかと言われれば、
それは違う。
私の好きな梨は、一つに絞られる。
いや、わざと絞る。
絞られた梨とは・・・
≪20世紀ナシ≫
なんという名前だろうか!
なんという命名だろうか!
これまで、モノに名前を付けた物体で、
これほど見事な命名があっただろうか?
私が小学校低学年の頃に、すでに出回っていた梨である。
ということは、50数年前に、
<20世紀ナシ>と、果物屋で売られていたのだ。
さて、この梨の旨さは、なんといっても、
<すっぱさ>だと言える。
梨が、次から次へと、甘さ追及に走るあまり、
酸っぱさを手放してゆく昨今、
最後の砦となっているのが、
20世紀ナシの、酸っぱさだ。
「リンゴもさあ、酸っぱくなくなったんだぁ~」
お嘆きは、ほかの業界からも聞こえる。
「プラムもさあ、酸っぱくないでねぇ~」
そっちからも、意見が出た。
「ブドウがよぅ、甘いばっかしでネ~」
あっちからも、呻き声が聞こえる。
その中で、唯一、頑張っているのが、20世紀ナシである。
八百屋で買い求める。
皮すら剥かずに、かぶりつく。
ガブガブガブ。
そして・・20世紀ナシの醍醐味は、終盤にある。
かぶりつくと、最後に、芯が近づいてくる。
芯に近づくと、急激にスッパさが増す。
このスッパさは、特殊だ。
異常なほどの、旨みのスッパさだ。
あまりのことに、人は、
その芯ごとガブガブと奥歯で噛み砕く。
ジュクジュクと溢れ出す、
スッパ甘味に酔いしれる。
邪魔な種の事など、気にもしない。
ジュクジュクジュクジュク
その挙句、パッパッパッパッ
芯のゴミをまき散らす。
かなり鼻息荒い私ができた。
まき散らしながら我らは、つい漏らすのだ。
「おぅ~~20世紀をナメんなよ・・」
ゼロ戦