突然、ドラマが入る。
どのくらい突然かというと・・
夜、酒をくらって、ぐでんぐでんの寝入りっぱな、
リ~ンリ~ン(古かった)
ポロロンポ~電話が鳴る。
『今から、宅急便で台本届けます』
(届けられちゃうのぉ~)
翌日、現場に駆けつけると、
監督が挨拶もそこそこに、台本の
手直しを
伝えてくれる。
「こうしました」
『そうしましたか』
(夜中に覚えたセリフは全部朝露とともに消え去った。)
ポルシェが登場した。
大型クレーンも登場した。
カースタントチームが、おそろいの制服で登場した。
大量のスポットライトの中を黄色のポルシェが
タイヤをきしませながら、
横浜の倉庫群の中を疾走する。
かっこいい。
「じゃ、石丸さ~んお願いしま~す」
『はいはい、チョット待ってねぇ、』
「石丸さん、このバミリに立ってください」
『へえへえ』
「この場所をいっさい動かないで下さい。」
『なヌ?』
「まばたきもしないで下さい!」
『へえへえ・・・・エ?』
時はおりしも平成13年、数える事2001年
数えなくても3月下旬。
横浜の倉庫群に爆音高く
走りこんできた黄色いポルシェ!
昨日台本を貰っただけのしがない役者に向かって
野生の咆哮さながら、雄たけびをあげ、
ポルシェカレラ1000万円が
突き進んでくるではないか!
〈ないか!〉
といってるうちに、ギョエーっというブレーキ音が
鳴り響き、昨日宅急便で渡された台本を
まだ、自分のとこしか読んでいない役者の向こう脛の
1メートル手前でバンパーが止まった。
めまいがする。
今朝、何を食べたっけ?
「はい!本番行きます!」
(今の本番じゃなかったんだ・・)
「本番!」
グオロロオ~ン キュるキゅりぃ
黄色のポルシェ1000万円が
わたくしめがけて飛んでくる。
「カーットオ!!」
おいらの向こう脛、の先50センチに
止まった黄色の鉄骨が湯気を出している。
なんで、おいらここにいるんだろう?
何をしているんだろう?
地球温暖化とかはどうなったんだろう?
麻原はもうゲロしたんだろうか?
「テイクツウー行きま~すぅ」
よくよく見ると、俺の隣に、ふたりの人間がいて
そのふたりが、あまりの恐怖に飛びのいたらしい。
NGらしい。
らしい
「ホンバン!」
ヘナチョコビナはどうなったんだろう?
カレーの毒は誰が入れたんだろう?
地雷は世界中にあといくつ残っているんだろう?
ギョオオオ~ン!ギエエエッツ!
黄色いバンパーは
脛の10センチまでせまる。
身動きひとつしなかった。
まばたきひとつしなかった・・
そして・・
まだ、セリフも覚えていない・・この役者への
御褒美として、夜食のおにぎり2個が
与えられた。
面白いな俺達・・
楽しいなこの世界・・