<サップ>なる海の遊び道具がある。
STAND UP BOARD の略である。
サーフィンから始まった遊びで、
大きめのボードに、パドルを一本持ち、漕いで進む。
波に乗るテイクオフを、手ではなく、
パドルの力を借りようというのだ。
っと、スポーツというものは、進化する。
「波に乗らなくてもいいんじゃないか?」
ボードの上に立って漕いでいるのだから、
そのまま、漕いでいるだけで、面白いのではないか?
長い距離を漕いでみよう。
海の上で遠足をしよう。
ついでに、魚を釣ってみよう。
「釣れたあ~~!」
大騒ぎで、沖から帰ってきたのは、コジマっちだ。
コジマっちが、背中にルアーを背負い、
サップに乗って漕ぎだしたのは、10分前だ。
ほどなく、海上で大騒ぎを始めた。
ルアーを後方に流して、サップを進めていたら、
突然、何かが食らいついたのである。
恐る恐る手繰ってみると、でっかい魚が銀色に輝いている。
コジマっちは、この時になって初めて気づいた。
何も、道具を持っていない事に・・
釣りに出たものの、釣れたあとの事を考えていなかった。
魚を持って帰ると云う行為まで、頭が回っていなかった。
(どうしよう?)
やがて、ええいままよと、
ルアーに噛みついた魚をそのまま泳がしながら、
サップを漕いで岸まで帰ってきたのである。
浅瀬に追い込み、捕まえてみると、美しい色をした、
《カスミアジ》ではないか!
長さ60センチ、体重2、5キロ。
このカスミアジ君も、運が悪い。
与論島のリーフの中をウロチョロしていたら、
たまたま通りかかった、
素人同然の釣り人コジマっちの疑似餌が漂っていたのだ。
少なくとも、遊び半分の人には釣られたくなかったに違いない。
ひょっとすると、あの広大なリーフの中に、
たった一匹しかいなかったカスミアジだったかもしれない。
かもじゃない。
それが証拠に、そのあと、皆が、
立派な道具を垂らして、
リーフ内をサップで駆け回ったにも関わらず、
小魚一匹、あがらなかった。
その夜、悲劇に出会ったカスミアジの冥福を祈るが如く、
イシマル手作りの見事な刺身が振る舞われたことは、
言うまでもない。