「だったらコヤツ、ステーキで食ってもいいんじゃないか?」
コヤツと呼ばれているのは、猪である。
先日来、猪のナベを喰らった話をしてきた。
猪といえば、ボタン鍋だと、固定観念があった。
ふと、反省した。
生肉なんだから、ステーキもありなんじゃないの?
素朴な思いつきだった。
大きな猪肉の塊を、左手で押さえ、包丁を握る。
ふむ・・・
何センチ切る?
鼻がふくらんだ。
まあ、最初の試みだから、ビビッて、1センチにしとこう。
切った。
私の心は、いつも《あわよくば》。
切ったその肉は、幅1,5センチを超えていた。
「さあ、焼こう!」
牛肉ステーキにあやかり、
塩コショウのみでやってみる。
パラパラと塩を振り、胡椒をかける。
フライパンをガンガンに熱し、まず、脂の部分を押し付けた。
ジュ~~~ン
牛や豚と違って、野生の猪は、
脂が、そうそう簡単に溶けやしない。
ジュ~~~ン
1分も押し付けた後、
やっと肉の断面をフライパンに押し倒した。
ジュワ~~ン
野生臭が、台所に広がる。
ふむ?・・・臭くない。
むしろ、
人をしてコブシを握り締めさせる匂いである。
階段をダッシュしたくなる匂いとも言える。
こう言い換えよう。
我々は、牛の匂いに慣らされてきた。
牛を焼く時に、反射的に涎が出るように、教育された。
ヨダレとは、牛の為に出る必需品だとさえ、思い込んだ。
それはそれで良かったのだが、この思い込みが、
<野生>を失わせたのかもしれない。
そんな時に、野生の猪の登場だ。
で、肝心の・・・ステーキの味だ。
ワサビ醤油で喰らった。
ナイフ、フォークが武器だ。
いや、ナイフ、フォークが無ければ、太刀打ちできない。
箸でも切れるなんてトンカツがあるが、
猪の筋肉は、箸をうけつけない。
その筋肉は、原野で生きてゆく力で、弾けている。
脂もしかり。
脂さえ、引き締まっている。
脂が、コリコリしている。
「あ~~うんまいなあ~~~」
次は、3センチに挑戦しよう!