「困った・・・」
朝、ホテルのレストランで、フリーズしていた。
左手には、ミルクコーヒーのグラス、
右手には、爪楊枝が握られている。
「困った・・」
爪楊枝をどうしたらいいのだろう?
本来なら、爪楊枝は使っていない時には、
使用後の皿の上に乗っけておいたりする。
再び使用する際に、また手で取る。
ところが・・・
バイキング形式のレストランで、私は、
食べ終わった残骸をトレイの上に、すぐに片づける。
納豆のビニールだの、箸入れだの、ナプキンの袋だの、
海苔の袋だの、ジュース2種類のコップだの、
カレールーの容器だのを、すべてトレイ上に収納する。
日本人としての礼儀だと考えている。
そして、ミルクコーヒーを飲みながら、
爪楊枝に仕事をさせるのである。
そんな時だ。
「お下げしてよろしいでしょうか?」
『あ・はい』
係りの女性が、食後のコーヒーを飲みやすいようにと、
残骸を片づけてくれたのだ。
くれたのは良かったのだが、
爪楊枝の置場が、宙に浮いてしまった。
右手の小指側をテーブルに乗せ、親指と人差し指に挟まれて、
爪楊枝は、待機している。
このポーズが、私のダンディズムを傷つける。
もし、
爪楊枝さえなければ、
食後の私は、「明日の日本を憂う紳士」に見えたかもしれない。
しかし、
爪楊枝という小道具が登場しただけで、
「スクランブルエッグじゃなく、目玉焼きにすればよかった・・」
小市民に成り下がる。
憂えている問題が、
「明日の日本」から、「目玉焼き」に急降下するのである。
人格が格下げされるのだ。
歯に刺さったヒジキに心が泳いでいる人だと、見抜かれる。
さらに問題は、席を立つ時に生じる。
この爪楊枝をどこに置いていったらいいのか?
テーブルにそのまま置くのは、許せない。
汚らしい。
片づける人の身になってみろ。
では、飲み干したグラスの中に入れるのか?
それはいけない。
皿洗いのアルバイトの経験上、この行為は嫌われる。
グラスに入れられた爪楊枝は取り出しにくい。
指を傷つけたりする。
水道で流しだしたソイツは、洗い場の水の中を泳ぎ回り、
排出口に詰まったりする。
さあ、どうする?どこに捨てる?
処分に困った爪楊枝を抱え、エレベーターに乗り、
自室に帰り、屑箱に捨てて、やっと、朝食を終えたのであった。
ロープウエイの影