伊根の舟屋
本を大切に扱うタイプではない。
大切にとは、
とても大切に扱うという意味である。
読んだ後、
まるで今買ってきたばかりの状態になっている、
という意味だ。
私が読んだ後は、背表紙のあたりが、グニャリと折れ曲がり、
紙全体は、開いてしまっている。
元に戻すには、重しを上に載せて、圧力をかけるしかない。
そもそも、買い求めた後、すべての付属品を取り去ってしまう。
カバー、カバーの外に付いている、帯。
中にはさまってあるシオリ、ほかの本の宣伝冊子。
表紙の厚紙を片手で持って振っても、
何も落ちてこない状態にして、カバンに入れる。
素のままにする。
読み進めるに従って、本は折り曲げられる。
折り曲げすぎて、紙を接着してある部分の接着剤が、
はぎ取られ、紙が一枚取れることがある。
その時は、その一枚を手に取り、文字を読み、
読み終わったページだけ、カバンにしまう。
あとで接着しようという考えだ。
しかし、後でくっ付けた記憶はない。
一枚足りない不完全な文庫本が読み終わったあと、
戸棚にしまわれる。
いや、この場合しまわれない。
本を人に差し上げたりした時に。肝心の部分が無くて、
犯人が解らなくなったりすると、失礼になるので、
その本は、ゴミとして出される。
アナタは、文庫本を読みかけた途中で、中座する時、
どうしているだろうか?
本に、茶色いヒモが付いてない本の場合だ。
私は、ページの下側を三角形に折る。
一冊読む間に、何度も、読みを中止すると、
大量の三角形の跡が残る。
ゆえに、下側部分だけが膨れている。
「気にならないのですか?」
『気にならない』
本を非常に大切にする先輩もいる。
折り目一つ付いてない。
その先輩が私の読んでいる本を見つけると、
烈火のごとく怒りだす。
「作家にあやまれぃ!」
本屋さんではなく、書いた人に謝れ、と諭している。
なるほど、先輩の方が、正しい。
正しいのだが・・次の本も、グニャリと曲げてしまう。
「ごめんなさい、え~と、コレは・・奥田英朗さま」
道が狭い伊根の舟屋のバス誘導車